【無法者と名乗る少女の成長】『われら闇より天を見る』レビュー

小説

殺人事件の真相をめぐる展開を主軸に、同時に少年少女の成長と喪失を描いたヒューマンドラマ――それが『われら闇より天を見る』です。

善と悪の境界がにじむ世界の中で少年少女は何を選び、どう生き抜いていくのか、が見どころになっています。
話が進んで行く度に心が痛くなってきますが、それでも目をそらせない、そんな展開が続きます。

2023年の本屋大賞翻訳小説部門で第1位をなっていますので、ご存じの方も多いかもしれませんね。
私もAudibleの本屋大賞カテゴリから本作品を知りました。

今回は「サスペンス小説」であり、同時に「ミステリ要素を含む小説」といえる、『われら闇より天を見る』について、レビューを通じて紹介します。
(ネタバレは無いよう配慮していますが、話の中身に触れる点はありますのでご了承ください。)

発売情報・受賞歴

著者:クリス・ウィタカー
発売日:2022年8月17日
出版社:早川書房
受賞歴:本屋大賞 翻訳小説部門 第1位(:2023年)
    英国推理作家協会賞 最優秀長篇賞(ゴールド・ダガー)
    週刊文春ミステリーベスト10(海外部門) 第1位 など

あらすじ

「それが、ここに流れてるあたしたちの血。あたしたちは無法者なの」
アメリカ、カリフォルニア州。海沿いの町ケープ・ヘイヴン。30年前にひとりの少女命を落とした事件は、いまなお町に暗い影を落としている。
自称無法者の少女ダッチェスは、30年前の事件から立ち直れずにいる母親と、まだ幼い弟とともに世の理不尽に抗いながら懸命に日々を送っていた。
町の警察署長ウォークは、かつての事件で親友のヴィンセントが逮捕されるに至った証言をいまだに悔いており、過去に囚われたまま生きていた。
彼らの町に刑期を終えたヴィンセントが帰ってくる。
彼の帰還はかりそめの平穏を乱し、ダッチェスとウォークを巻き込んでいく。
そして、新たな悲劇が……。
苛烈な運命に翻弄されながらも、 彼女たちがたどり着いたあまりにも哀しい真相とは――?

※Audible われら闇より天を見る あらすじより引用

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配信日:2022年12月23日
ナレーター:川島 悠希
再生時間:18時間38分
評価:☆4.2 206件の評価
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物語展開・構成の評価

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
物語は小さな海辺の町で起きた殺人事件から始まりますが、ただのミステリの展開に収まらないのが本作のすごいところです。
警察署長のウォークが事件の真相を追いながら、孤独や喪失を抱えた登場人物たちの人生が少しずつ明らかになっていきます。

ダッチェスが弟ロビンを守りながら必死に生きる姿と、町の医師や教師など大人たちが彼らを気にかける流れが、物語をただの「事件の物語」ではなく「人間の物語」へと引き上げていました。
最後のほうは少し真相が読めたところもありましたが、気になっていたことがきちんと回収される展開は個人的に好みでした。

感情の揺さぶりと読後の印象

⭐️⭐️⭐️⭐️☆
読んでいて最も心を揺さぶられたのは、ダッチェスが必死に弟を守ろうとしながらも、自分自身はまだまだ子どもであるというギャップでした。
口が悪くて周りとはしょっちゅう衝突してしまうけれど、弟を想う気持ちは誰よりも強い。
そこから生まれてくる、歯がゆい感じに切なくなるというシーンが何度も訪れます。
幸せそうなシーンが一瞬訪れたかと思えば、すぐに現実の厳しさに引き戻される。
そのアップダウンに「心をつかんで離さない」と感じさせられた読書体験でした。
(ちょっと悪い言い方ですが、「心をかき乱された」という表現も割としっくりきます😅)

登場人物の魅力

⭐️⭐️⭐️⭐️☆
主人公であり「無法者」を名乗るダッチェスは、その性格がゆえに多くの事件を起こします。
正直、ダッチェスさえもう少し大人しかったらもっと良い展開になったのでは?と思うことすらあるレベルです。
境遇を考えれば仕方ないところなのかなと思っていますが、いままであまり出会ったことのないキャラクターでとても新鮮でした。
そして、なにより、弟のロビンがひたすら可愛らしいです。
ロビンが本作を進めていく中で癒やしを与えてくれる存在になっています。

なお、本作は登場人物がとにかく多いので、最初は「この人誰だっけ?」と何度か戻る必要が出てきますので、その点は要注意です。

ナレーターの演技・声の印象

⭐️⭐️⭐️☆☆
川島 悠希さんの声質はとても聴きやすく、幼いロビンや年配のウォークなど声質で演じ分けされています。
特にロビンの可愛らしいキャラクターは見事に演じています。
ただ、上述のとおり、とにかくたくさん登場人物が出てきますので、これは誰のセリフだろ?となってくるシーンはどうしても出てきていました。
こればっかりは一人で演じ分ける限界かなと思いました。

登場人物が多いということもありますが、そもそもが海外文学ということもあり、少し内容の理解に時間がかかる箇所があるのは間違いないと思います。
ただ、それを含めても、みなさんにオススメしたい作品でした。

ページを遡って確認する、という機会が結構出てくる作品ですので、最初は紙の本のほうが理解しつつ進められるかなと感じました。
お時間余裕ある方、本作が刺さった方は、その次にAudibleでの聴き読書で、より臨場感のある体験をしてみてください。

最後になりましたが、原題は『WE BEGIN AT THE END』。私たちは終わりから始める、です。
個人的には原題のほうが物語自体にしっくり馴染むかな、と感じました。
みなさんのご意見もぜひ聞かせてくださいね。

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