【ただの戦争小説では終わらない】逢坂 冬馬『同志少女よ、敵を撃て』

小説

この作品については、本屋大賞などの受賞歴という実績もありますが、ぼくは何より本自体の装丁に非常に惹かれました。
少女のイラストとタイトルの組み合わせのインパクトがものすごく魅力的です。

戦争小説については「重そう」という偏見からあまり触れてきていなかったのですが、読む前と読んだ後で戦争小説への印象ががらりと変わりました。
今回は、戦火に翻弄されながらも生き抜く少女の姿を鮮烈に描いた本作品の魅力について紹介します!(ネタバレ無しです)

発売情報・受賞歴

著者:逢坂 冬馬(1985年10月8日生まれ)
発売日:2021年11月17日
出版社:早川書房
受賞歴:第11回アガサ・クリスティー賞、2022年本屋大賞、第9回高校生直木賞

あらすじ

1942年、独ソ戦が激化する中、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマは、ドイツ軍の急襲で母エカチェリーナや村人を惨殺される。
自らも射殺されかけたが、赤軍の女性兵士イリーナに救われ、「戦うか、死ぬか」と問われ、彼女はイリーナが教官を務める訓練学校で狙撃兵になることを決意。
母を撃ったドイツ人狙撃手と、遺体を焼いたイリーナへの復讐を胸に、家族を失った仲間の女性兵士たちと訓練を積む。
やがてスターリングラードの前線に立ち、死の果てに彼女が見いだした“真の敵”とは――。

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配信日:2022年4月1日
ナレーター:青木 瑠璃子
再生時間:15時間34分
評価:☆4.8 5,769件の評価
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物語展開・構成の評価

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
冒頭、セラフィマの村がドイツ軍に蹂躙され、母を失う場面から一気に物語へ引き込まれます。
復讐を誓った少女が、復習を誓いつつ訓練学校で仲間とともに狙撃兵として成長していく、という展開自体はよくある展開かなと思いましたが、その過程は緊張感に満ちており、やがてスターリングラード戦線へと至るまでの流れが重厚かつ必然的に積み上げられていました。
復讐心と仲間意識が交錯し、最終的に「戦いの意味」を問うラストに収束していく構成は、文学的にも完成度が高いと感じます。

感情の揺さぶりと読後の印象

⭐️⭐️⭐️⭐️☆
母を撃ち殺された怒り、訓練所で仲間と支え合う友情、戦場で次々と命を失っていく現実――その一つひとつが強烈に胸に迫ります。
特に、親しい戦友が無惨に倒れる場面では、冷徹な戦場の様を容赦なく突きつけられます。
本作品ではその感傷を引っ張る=涙を誘うような直接的な感情表現よりも「重く響く余韻」が残る、というような表現になっているシーンが多いと感じました。

登場人物の魅力

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
主人公セラフィマは、復讐心に突き動かされながらも次第に「人を撃つことの意味」と向き合っていく存在として、また、戦争というものを読者と一緒に知っていく存在として描かれています。
教官イリーナは苛烈でありながら、背負う過去が彼女の行動を形作っており、単なる冷酷な指導者にとどまりません。
訓練学校の女性兵士たちも一人ひとりが背景を抱えており、戦場で彼女たちの選択や最期が積み重なることで、物語に人間的な厚みが生まれています。
ただ、最初は外国の名前を覚えるのに苦戦される方もいるかもしれません。(もちろんぼくもそうでした笑)
そういった方はちょっと進めて慣れてから最初から読み直すのもオススメです。

ナレーターの演技・声の印象

⭐️⭐️⭐️⭐️☆
朗読は過度な演出にはならないように意識されており、落ち着いたトーンで戦場の緊張感や静かな残酷さを引き立てています。
その語りは、例えばスターリングラードでの市街戦の場面などで、銃声や死の匂いをかえって生々しく感じさせるため、作品の冷徹な文体には非常にマッチしていると思います。
たくさん登場するキャラクターの演じ分けも見事です。
個人的な好みが、感情をがっつり込めた朗読なので☆4としていますが、上述の通り素晴らしい朗読になっています。

ぼくのように戦争小説初心者から、読み応えを求める読者まで、幅広くおすすめできる一冊です。

ソ連という国の物語をこれほどまでに細かく日本人作家が描いたという事実も圧巻です。
ソ連としての歴史はもちろんのこと、射撃に関する専門的な知識もふんだんに盛り込まれていました。
また、日常の風景なども描かれており、戦争の中で生きる人にも日常はあるんだなと当たり前ではありますが実感しました。

戦争における各キャラクターの緊迫感漂う様をナレーターの青木さんが見事に表現していますので、Audibleでの聴き読書がオススメですが、上述の通り、装丁が非常に良いので紙の本もオススメします。

なお、あとで知りましたが、コミック化もされているようです。
同じく早川書房さんから。
こちらも読まれた方がおられましたら、感想などコメントで教えて下さい。

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