【「家族」という名の迷宮を描く直木賞受賞作】島本 理生『ファーストラヴ』Audibleレビュー

Audibleレビュー

島本理生さんの『ファーストラヴ』は、ひとつの殺人事件から始まります。
就職活動の帰り道、父親を刺殺したとして逮捕された女子大生・聖山環菜(ひじりやまかんな)。
血に染まったまま多摩川沿いを歩いていた彼女の姿は、事件としてだけでなく、その背景を考えさせられます。

その問いに向き合うのが、臨床心理士の真壁由紀(まかべゆき)です。
環菜本人、その母親、周囲の人々との面接を通して、少しずつ明らかになっていきます。
「動機はそちらで探してください」という環菜の真意を探っていく展開は聴き応えがありました。

Audible版は、松井玲奈さんが朗読を担当しており、登場人物の心情や物語の緊張感を丁寧に伝えてくれます。
想像以上に聴きやすい声で、この物語にマッチしています。

単なるサスペンスではなく、家族の秘密、愛のかたち、そして家庭環境を反映した複雑な心理描写が見どころの『ファーストラヴ』について、レビューを通じて紹介します。
(ネタバレは無いよう配慮していますが、話の中身に触れる点はありますのでご了承ください。)

発売情報・受賞歴

著者:島本 理生(1983年5月18日)
発売日:2018年5月31日
出版社:文藝春秋
受賞歴:直木三十五賞 2018年

あらすじ

第159回(2018年上半期)直木賞受賞作
夏の日の夕方、多摩川沿いを血まみれで歩いていた女子大生・聖山環菜が逮捕された。
彼女は父親の勤務先である美術学校に立ち寄り、あらかじめ購入していた包丁で父親を刺殺した。
環菜は就職活動の最中で、その面接の帰りに凶行に及んだのだった。
環菜の美貌も相まって、この事件はマスコミで大きく取り上げられた。なぜ彼女は父親を殺さなければならなかったのか?

臨床心理士の真壁由紀は、この事件を題材としたノンフィクションの執筆を依頼され、環菜やその周辺の人々と面会を重ねることになる。
そこから浮かび上がってくる、環菜の過去とは?
「家族」という名の迷宮を描く傑作長篇。

※Audible ファーストラブ あらすじより引用

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配信日:2019年10月18日
ナレーター:松井 玲奈
再生時間:9時間43分
評価:☆4.6 400件の評価
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物語展開・構成の評価

⭐️⭐️⭐️⭐️☆
事件そのものの真相を追うというより、「なぜ、そうせざるを得なかったのか」を丁寧に掘り下げていく構成が印象的でした。
父親を刺殺した女子大生・聖山環菜の供述を、臨床心理士・真壁由紀の視点が読み解いていくことで、少しずつ家族の歪みが立体的に見えてきます。

一気に謎が解けるタイプではありませんが、過去のエピソードが少しづつ積み重なっていき、終盤でまとまる流れは安定感がありました。
派手さは控えめなぶん、心理描写をじっくり味わえる構成になっています。

感情の揺さぶりと読後の印象

⭐️⭐️⭐️⭐️☆
読み(聴き)進めるほどに、環菜の言動に対する見方・印象が何度も揺さぶられました。
彼女が感情をほとんど表に出さず、淡々と話すその態度に、距離を感じることもありましたが、物語が進むにつれ、その“無感情さ”自体が、彼女の生き延び方だったのだと気づかされます。

強く泣かせる場面があるわけではないのに、聴き終えたあと、しばらく考え込んでしまうタイプの余韻でした。

登場人物の魅力

⭐️⭐️⭐️⭐️☆
真壁由紀は、感情移入しすぎず、突き放しもしない距離感が良い印象でした。
自分自身も決して「完成された大人」ではなく、迷いや整理できていない感情を抱えたまま環菜と向き合っている点に、リアリティを感じました。
その他、過去に出来事があった義理の弟:真壁迦葉(まかべかしょう)も物語に深みをもたせています。

そして、個人的には環菜の母親:昭菜(あきな)の存在が非常に強烈でした。
露骨な悪意はないのに、結果的に娘を追い詰めてしまっている感じには、「こういう親、現実にもいそう」と思わされました。
それがこの作品の怖さでもあり、説得力でもあると感じました。

ナレーターの演技・声の印象

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
Audible版を選んで正解だった、と強く思った理由のひとつが松井玲奈さんのナレーションです。

環菜の感情を抑えた語りと、迦葉の理知的かつ陽気な語りを、声色を作り込みすぎずに自然に聴き分けさせるバランス感覚が見事でした。

とくに印象的だったのは、感情が表に出ないはずの環菜の言葉に、
ほんのわずかな揺れや息遣いで「抑え込まれた感情」を滲ませていた点です。
文章以上に、人物の温度が伝わってくる朗読でした。

松井玲奈さんへのインタビューによれば、「一人の少女が自分の気持ちに真っすぐに向き合って、自分なりの答えを見つけ出すお話と感じた」とありますが、それを見事に表現されています。
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こんな方にオススメします

  • 派手なトリックよりも、人の心の奥をじっくり描く物語が好きな方
  • 家族関係や「親から受ける影響」をテーマにした作品に惹かれる方
  • Audibleで、演技力の高い朗読をじっくり聴きたい方

こんな方は合わないかも?

  • テンポの速い展開や、明快な謎解きを重視するミステリを求めている方
  • 家族関係や親子の歪みを描く物語に、強いストレスを感じてしまう方

『ファーストラヴ』は、スピード感のあるミステリや明快な解決を楽しむ作品ではありませんが、登場人物の感情や、家族という近すぎる関係が生む歪みを掘り下げていく力を持った物語だと感じました。
直木賞を受賞していることも納得です。

軽快さや爽快感を求める方には少し重く感じられるかもしれませんが、人の心の奥に残る違和感や、簡単には整理できない感情に向き合いたいときには、これ以上なく響く一冊だと思います。

松井玲奈さんの落ち着いたナレーションのおかげで感情が過剰になりすぎず、最後まで静かに向き合えたのも、Audible版ならではの良さでした。
気持ちに余裕のあるタイミングで、じっくり聴いてほしい作品です。

本レビューが少しでも皆さんの参考になって、「聴いてみようかな」と思っていただけたら嬉しいです。
もし聴かれた方がいたら、感想もぜひ教えてくださいね!

北川 景子さん、中村 倫也さんらによる映像化

2021年2月に、堤幸彦監督のメガホンで映画化されています。
配役、完璧ですね。
ぜひ一度観てみたいと思います。

映画.comのファーストラヴページはこちら

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