井上 真偽さんの『アリアドネの声』は、巨大地震で地下に取り残された女性――視覚も聴覚も、さらには話すことさえできない三重の障がいを抱える 中川博美 を救うため、救助ドローンでの誘導に挑むという極限状態を描いています。
絶体絶命の状況と技術に託す希望が交錯するミッションは、ただのサバイバルではなく「人命・倫理・信頼」を問う重いテーマになっています。
この設定があるからこそ、「音も光も届かない暗闇の迷宮」という絶望的な状況が、読者にとって単なるフィクションではなく、「自分だったら?」と考えずにはいられないリアリティになっていました。
今回は、極限状態のサバイバルと想像を超えるどんでん返しが待つ、心揺さぶるサスペンスとなっている本作を、レビューを通じて紹介します。
(ネタバレは無いよう配慮していますが、話の中身に触れる点はありますのでご了承ください。)
井上 真偽『アリアドネの声』 作品概要
発売情報・受賞歴
著者:井上 真偽(生年月日 非公開)
発売日:2023年6月21日
出版社:幻冬舎
受賞歴:ー
あらすじ
巨大地震発生。地下に取り残された女性は、目が見えず、耳も聞こえない。
光も音も届かない絶対的迷宮。
生還不能まで6時間。
想像の限界を超えるどんでん返し。
救えるはずの事故で兄を亡くした青年・ハルオは、贖罪の気持ちから救助災害ドローンを製作するベンチャー企業に就職する。
業務の一環で訪れた、障がい者支援都市「WANOKUNI」で、巨大地震に遭遇。
ほとんどの人間が避難する中、一人の女性が地下の危険地帯に取り残されてしまう。
それは「見えない、聞こえない、話せない」という三つの障がいを抱え、街のアイドル(象徴)して活動する中川博美だった――。
崩落と浸水で救助隊の侵入は不可能。
およそ6時間後には安全地帯への経路も断たれてしまう。
ハルオは一台のドローンを使って、目も耳も利かない中川をシェルターへ誘導するという前代未聞のミッションに挑む。
※Audible アリアドネの声 あらすじより引用

Audible版『アリアドネの声』の概要
配信日:2024年1月12日
ナレーター:上野 翔
再生時間:6時間47分
評価:☆4.4 546件の評価
▶ Audible公式ページで作品詳細を確認
『アリアドネの声』個人レビュー(星評価付き)

物語展開・構成の評価
⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
巨大地震で崩落した地下空間に、“見えない・聞こえない・話せない”三重の障がいを抱える中川博美が取り残される――という設定には一気に物語に引き込まれました。
救助隊が侵入不可能な状況で、ハルオがチームと協力して一台の災害救助ドローンだけを頼りに誘導を試みるシーンは緊迫感があります。
「光も音も使えない」という圧倒的制約に対し、6時間のタイムリミットを軸に進む展開は、災害サスペンスとミステリが自然に融合していて見事です。
終盤に向けて情報が収束していく構成も美しく、“完璧に練られた物語”を読んだ(聴いた)という満足感がありました。
ネタバレになるかもしれませんが、あらすじなどでも記載されているので述べますが、後のどんでん返しは私にとっては予想外で良かったです。
話のボリューム的には長い小説ではありませんが、その中で綺麗にまとめられていると感じました。
感情の揺さぶりと読後の印象
⭐️⭐️⭐️☆☆
胸に迫る場面は多いのですが、涙腺を直撃するタイプというより、淡々とした緊張が続く“冷たい熱”の作品という印象です。
例えば、ドローン越しに博美の“かすかな動き”から意思を読み取ろうとするハルオの姿には、彼が兄を救えなかった過去と重なる痛みが滲み、静かに心を刺してきました。
このように、「感情の爆発」というよりも「理性と焦燥の積み重ね」で魅せるタイプの作品なので、読後は強烈な余韻というより、深い溜息のような虚しさと希望が残る感触でした。
登場人物の魅力
⭐️⭐️⭐️☆☆
高木春生(たかぎはるお)、中川博美(なかがわひろみ)ともに強烈なキャラクター性というよりも テーマ性の体現者 として描かれている印象が強かったです。
キャラそのものに深く共感させるよりも、状況と設定が前面に立つタイプの物語でした。
ただ、春生の同級生の韮沢粟緒(にらさわあお)など、正直あまり物語上の必要性を感じられない登場人物がいると感じたのも事実です。
個人的には、ハルオ以外の人物の掘り下げがもっと欲しかったなと思いました。
ナレーターの演技・声の印象
⭐️⭐️⭐️⭐️☆
上野 翔さんのナレーションは、作品の“静けさ”と“緊張感”をよく表現していました。
主人公:春生の心の揺れを過剰に演じたりはせず、淡々とした調子の中に焦燥をにじませる演技が好印象でした。
このようにキャラの個性を強く出すタイプではなく、“状況を聞かせる”ナレーション寄りなので、物語の重さをさらに強調してくれています。
感情移入の促進という面では控えめかもしれません。

総評 ▷ Audibleの聴き読書をオススメします!
こんな方にオススメします
- タイムリミット型サスペンスの緊張感が好きな人
- 災害×テクノロジーのリアルな描写に興味がある人
- ミステリ的などんでん返しを求める人
- Audibleで緊迫感を味わいたい人
『アリアドネの声』は、災害・障がい・テクノロジーという重い題材を扱いながら、サスペンスとしての圧倒的な緊迫感と、ミステリとしての構成美を同時に堪能できる一作でした。
また、キャラクターの人間的魅力というより、設定と状況が前面に立つ作品で、読後の感情は「感動で泣く」よりも 冷たい重圧と淡い希望がじんわり残るタイプです。
物語の“静寂”や“閉塞感”が、文字よりも音声の間(ま)で強く伝わるのがAudible版の大きな魅力でした。
本レビューが少しでも皆さんの参考になって、「聴いてみようかな」と思っていただけたら嬉しいです。
もし聴かれた方がいたら、感想もぜひ教えてくださいね!

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