【特殊詐欺を扱った社会派ミステリ】阿部 暁子『金環日蝕』Audibleレビュー

Audibleレビュー

阿部 暁子さんの作品には2025年本屋大賞を受賞した「カフネ」で出会いました。
そして、阿部暁子さんの他の作品をと探してみて出会ったのがこの『金環日蝕』でした。

『金環日蝕』は、大学生の春風(はるか)と高校生の錬(れん)が、春風の知人の老女がひったくりに遭う瞬間を偶然居合わせ、二人が犯人を追うところから始まります。
犯人は間一髪で逃走しますが、そこから遺留品を手掛かりに二日間だけの“探偵コンビ”が結成されてーーーという展開です。

このスタートから推理モノの展開かと思いましたが、良い意味で期待が裏切られました。
ただの“犯人探し”では終わらず、詐欺、貧困、社会の弱者などの現代社会が抱える闇に視点を当てた社会派ミステリとなっています。

今回は、今日の空気まで少し違って見えるような読後感を味わえる本作を、レビューを通じて紹介します。
(ネタバレは無いよう配慮していますが、話の中身に触れる点はありますのでご了承ください。)

発売情報・受賞歴

著者:阿部 暁子(1985年)
発売日:2022年10月31日
出版社:東京創元社
受賞歴:ー

あらすじ

輪郭は強烈な輝きを放っているのに、
彼の中心は闇に沈み、謎めいたまま――
ひったくりの犯人を突き止めた。
事件はそれで終わらなかった。
私たちは、ある男が歩んだ道を
辿り直すことになる。
本屋大賞作家、渾身の長編

知人の老女がひったくりに遭う瞬間を目にした大学生の春風は、その場に居合わせた高校生の錬とともに咄嗟に犯人を追ったが、間一髪で取り逃がす。
犯人の落とし物に心当たりがあった春風は、自分が通う大学で犯人探しをしようとするが、心配だから同行させてほしいと言う錬に押し切られ、二日間だけの探偵コンビを組むことに。
かくして大学で犯人の正体を突き止め、ここですべては終わるはずだった――。

最新作『カフネ』が話題の俊英が〈犯罪と私たち〉を切実に描いた、いま読まれるべき力作長編。

※Audible 金環日蝕 あらすじより引用

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配信日:2025年9月19日
ナレーター:中宮 沙希
再生時間:13時間44分
評価:☆4.6 456件の評価
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物語展開・構成の評価

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
『金環日蝕』は、ひったくりの現場を偶然目撃した大学生・春風と高校生・錬が探偵ごっこをするところから始まり、その後の展開で想像を覆すような真実が少しずつ姿を現す、という構成が非常に巧みでした。

序盤は学校を舞台とした割と平和な展開が続いていくため、正直「このままでは中だるみしそう」と思っていましたが、中盤以降の社会問題の影/犯罪の深層に踏み込む展開に、良い意味で期待を裏切られました。
結果として、長編作品ながら中だるみはせず、満足度の高い一冊に仕上がっています。

感情の揺さぶりと読後の印象

⭐️⭐️⭐️⭐️☆
この作品は「感動」「涙」というよりは、むしろ「胸の奥のざわめき」と「問いを残す余韻」が強く残ると感じました。
最初は犯人を追ったのに取り逃がしてしまう「悔しさと無力さ」がリアルに描かれており聴きながら共感していったのですが、物語後半で明かされる社会の闇や登場人物たちの事情には、考えさせられることが非常に多く、読後感は少し重めになっています。

その重さが味を出している作品なのですが、それ故に読む・聴く人によってはあまり良い気分では終われないかもしれないと感じました。

登場人物の魅力

⭐️⭐️⭐️⭐️☆
主人公の春風は、事件をきっかけに安易な正義感だけで突っ走る若者と最初は思いましたが、それは聴き進めていくうちに印象の変化を体感していくことになります。
また高校生の錬、そして犯罪に絡む複数の世代・立場の人物が、それぞれに事情と弱さを抱えており、単純な「善vs悪」では語れない人間模様が描かれていると感じました。
特に、現実の社会的格差や貧困などに苦しむ登場人物たちの姿には胸が苦しくなりました。

私は、子供が絡む貧困や虐待の話は苦手なので、そういう展開が好まない方はご注意ください。

ナレーターの演技・声の印象

⭐️⭐️⭐️☆☆
Audibleではナレーターに中宮沙希さんがあてられており、全体として聞きやすく安心感があります。
ただ、主人公春風の声が個人的には少し機械的なように感じ違和感がありました。
とはいえ、長編を聴き通す上での安定感や、性別も年齢層も様々な登場人物の演出をこなされている点には素直にすごいと感じました。
双子の可愛さや、犯罪者のドスの効いた声、などは必聴です。

こんな方にオススメします

  • 善・悪とは何か、を考えさせられる作品に惹かれる人
  • 登場人物の内面に寄り添う物語が好きな人
  • 詐欺を行う人の裏側を知りたい人

『金環日蝕』は、青春ミステリの軽快さと、社会派作品の鋭さを同時に併せ持った一冊です。
大学生・春風と高校生・錬による“探偵ごっこ”から始まる物語は、予想以上に深い闇と現実に繋がり、登場人物たちの弱さや痛みがリアルでした!
ミステリとしての面白さはもちろん、若者たちの心の揺らぎや、社会的背景を考えさせる重みもあり、「聴いて良かった」と思わせる読後感のある作品でした。
先述の通り、重みがある読後感のため、その点はご注意ください。

静かな光と深い影を混じっていくような物語を探している方には、特におすすめの一冊です。

本レビューが少しでも皆さんの参考になって、「聴いてみようかな」と思っていただけたら嬉しいです。
もし聴かれた方がいたら、感想もぜひ教えてくださいね!

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